「売り場が見つからない」
「このDIYには何が必要か分からない」
「担当者が不在で詳しい説明を受けられない」
ホームセンターでは、広い店舗と膨大な商品数、専門性の高い相談が重なり、接客の難易度が上がります。
AI接客は、この課題に対して売り場案内、商品提案、スタッフの知識支援という形で実用化が進んでいます。
本記事では、実際に稼働している国内外3社の事例から、導入の目的と設計のポイントを整理します。
この記事の要点
カインズは、店頭サイネージで商品売り場を音声とMAPにより案内しています。
Lowe’sは、顧客向けAIと店舗スタッフ向けAIを同じ基盤で展開しています。
The Home Depotは、DIY相談から店舗内の商品探索までAI支援を広げています。
成否を分けるのはAIの性能だけでなく、ナレッジ、利用導線、人への引き継ぎです。
- この記事の要点
- ホームセンターでAI接客が必要とされるのはなぜか?
- ホームセンターではAI接客が実際にどう使われているか?
- カインズ|店頭で商品売り場を案内する「スマートフロアナビ」
- Lowe’s|顧客向け「Mylow」とスタッフ向け「Mylow Companion」
- The Home Depot|商品・DIY相談に答える「Magic Apron」
- 3社の事例から何が分かるか?
- 商品名ではなく「やりたいこと」を起点にする
- 顧客向けAIとスタッフ支援AIを分けて考える
- 回答を在庫・売り場・購入行動につなげる
- AI接客はどこから導入すべきか?
- 頻度が高く正解が明確な質問から始める
- ナレッジの更新責任者を決める
- 人へ切り替える条件を先に定義する
- WebやアプリのAI接客を段階的に実装するには?
- ホームセンターのAI接客に関するFAQ
- AI接客は店舗スタッフの代わりになりますか?
- ホームセンターのAI接客は店頭とECのどちらから始めるべきですか?
- 生成AIに商品マニュアルを読み込ませるだけで使えますか?
- 誤回答や危険な案内はどう防ぎますか?
- AI接客を実装する「Onboarding Pulse」
ホームセンターでAI接客が必要とされるのはなぜか?
ホームセンターでは、顧客の目的と商品情報を結びつける負荷が大きいため、AIによる案内や知識支援が有効です。
一般的な小売店では「商品名」が分かれば検索できます。
しかしホームセンターの顧客は、「蛇口の水漏れを直したい」「庭の雑草を減らしたい」「壁に棚を付けたい」のように、解決したい課題から来店することが少なくありません。
そこで必要になるのは、単品の商品検索だけではなく、次の情報をつなぐ接客です。
どの作業を、どの順番で行うか
どの商品や工具が必要か
自店に在庫があるか、どの売り場にあるか
安全上の注意や、専門スタッフへの相談が必要か
この複雑さをすべて人だけで吸収しようとすると、スタッフの経験差が回答品質に影響します。
AI接客の役割は人を置き換えることではなく、頻出案内をすぐ返し、スタッフが専門相談や提案に時間を使える状態をつくることです。
ホームセンターではAI接客が実際にどう使われているか?
実用化されているAI接客は、店頭の直接案内、顧客向けのオンライン相談、スタッフの接客支援という3つに分けられます。

カインズ|店頭で商品売り場を案内する「スマートフロアナビ」
株式会社カインズは、2025年12月に開業した吉川美南店で「スマートフロアナビ」を導入しました。
来店客が探している商品を尋ねると、音声とMAP表示で売り場を案内する仕組みです。

画像出典:PR TIMES(株式会社DearOne プレスリリース)
同店は売場面積が約12,300平方メートルあり、約7万7,000点の商品を扱います。
広い店内で起こりやすい「商品がどこにあるか分からない」という迷いに、店頭で直接答える設計です。
カインズは、スマートフロアナビ6台の活用により、年間約8,000時間分の売り場案内業務の削減を計画しています。この数値は実績ではなく、導入時点の計画値として見る必要があります。
情報出典:カインズ公式 ニュースリリース、および ITmedia ビジネスオンライン 報道より抜粋・編集
カインズの事例で注目したいのは、AIを単独のチャットとして置かず、店舗MAPと接続している点です。
質問に答えるだけでなく、「次にどこへ行けばよいか」まで示すことで、接客が行動につながります。
Lowe’s|顧客向け「Mylow」とスタッフ向け「Mylow Companion」
アメリカ合衆国を代表する大手住宅リフォーム・ホームセンターチェーンのLowe’s Companies,inc は、2025年3月に顧客向けAIアドバイザー「Mylow」を公開しました(1)。
顧客は「芝の種はいつまくべきか」「床材のためにキッチンをどう測るか」といった質問を自然な言葉で入力でき、手順、商品候補、ハウツー情報を受け取れます。
同年5月には、店舗スタッフ向けの「Mylow Companion」を1,700超の店舗へ展開しました(2)。
スタッフが売り場の業務端末から、商品情報、作業方法、在庫情報を会話形式で確認できる仕組みです。
担当外の売り場を手伝う場合や、経験の浅いスタッフが接客する場合にも、必要な知識をその場で補えます。
Lowe’sとOpenAIが公表した2025年のレポートでは、MylowとMylow Companionは合計で月間約100万件の質問に回答し、Mylow利用時のオンライン購入率は2倍超、Mylow Companionを接客に使った場合の顧客満足度は200ベーシスポイント上昇したとされています。
ベンダーとの共同公表値ではありますが、利用数だけでなく購入率と顧客満足度まで追っている点は、KPI設計の参考になります。
情報出典:Lowe's公式プレスリリース(1), (2)、Lowe’s 2025年Q3決算発表、OpenAI・Lowe’s共同導入事例レポートの公表値より記述。
The Home Depot|商品・DIY相談に答える「Magic Apron」
住宅リフォームや建設資材などを扱う世界最大手のホームセンターチェーンのThe Home Depotは、2025年3月に生成AIツール群「Magic Apron」の展開を発表しました。自社の商品カタログとプロジェクト知識をもとに、商品質問やDIYの進め方へ24時間回答します。
2026年8月には、全米の店舗でローカル情報に対応した店内機能を展開しました。顧客はアプリの店舗モードや店頭QRコードから、テキスト、音声、画像を使って質問でき、商品位置や店舗ごとの情報を踏まえた案内を受けられます。
The Home Depotによれば、Magic Apronはこの時点で月間数百万件の質問に対応しています。
この事例は、Web上の相談AIを店内へ広げた例です。オンラインと実店舗で別々のAIをつくるのではなく、顧客がいる場所に応じて同じ知識を届ける発想が見えます。
情報出典:The Home Depot 公式プレスリリース(2025年3月発表)、The Home Depot 公式プレスリリース(2026年8月店舗拡張発表)より記述。
3社の事例から何が分かるか?
3社に共通するのは、AIの回答を顧客の商品探索や購入、スタッフの次の行動へつなげていることです。

商品名ではなく「やりたいこと」を起点にする
ホームセンターの顧客は、正しい商品名を知らないことがあります。
AI接客では「何を買いたいか」だけでなく、「何を実現したいか」を聞き、作業手順と必要商品へ分解する設計が重要です。
顧客向けAIとスタッフ支援AIを分けて考える
顧客向けAIには、分かりやすさと購入までの案内が求められます。
一方、スタッフ向けAIには、在庫、互換性、施工条件、社内手順など、より詳しい情報が必要です。
Lowe’sのように同じ知識基盤を活用しながら、利用者ごとに回答範囲を分けると整理しやすくなります。
回答を在庫・売り場・購入行動につなげる
「この商品がおすすめです」と答えるだけでは、接客は完了しません。
どの店舗に在庫があるか、店内のどこにあるか、何を一緒に買うべきかまでつながると、顧客は次の行動に移れます。
カインズのMAP案内や、Lowe’sの商品提案は、この接続を具体化した例です。
AI接客はどこから導入すべきか?
最初からあらゆる質問に答えようとせず、頻度が高く、正解が明確で、顧客の次の行動につながる領域から始めます。

頻度が高く正解が明確な質問から始める
初期対象には、売り場、在庫、営業時間、配送、工具の基本用途などが向きます。
専門資格が必要な判断や、安全性に大きく関わる相談は、AIだけで完結させず、人への案内を前提にします。
ナレッジの更新責任者を決める
AIの回答品質は、商品情報、店舗情報、FAQ、作業手順の正確さと鮮度に左右されます。
導入前に、どの部門が情報を承認し、価格改定や取扱終了をいつ反映するかを決めておく必要があります。
人へ切り替える条件を先に定義する
リフォーム見積もり、事故につながる作業、苦情、個別契約に関する質問などは、人へ引き継ぐ条件を明確にします。
AIが答えられないときに行き止まりをつくらず、相談窓口や担当スタッフへ文脈ごと渡せる設計が理想です。
WebやアプリのAI接客を段階的に実装するには?
Webやアプリでは、顧客が迷う画面にAIの入口を置き、回答後の操作まで案内することで、自己解決しやすい導線をつくれます。
たとえば、商品一覧で用途を聞いて候補を絞り、商品詳細で選定理由を説明し、配送や店舗受け取りの画面で手続きをガイドする流れです。
AIが会話するだけではなく、画面上のヒントやステップ案内と組み合わせると、回答から行動への切り替えが滑らかになります。
重要なのは、AIを置くこと自体を目的にしないことです。顧客が困る場所、必要な情報、次に取ってほしい行動を先に決め、その間をAIと画面案内でつなぎます。
ホームセンターのAI接客に関するFAQ
AI接客は店舗スタッフの代わりになりますか?
すべての接客を代替するものではありません。
売り場案内や基本的な商品情報はAIと相性がよい一方、
施工条件の確認、リフォーム相談、安全性に関わる判断、感情を伴う苦情対応は人が担うほうが適切です。
AIは頻出対応と情報検索を支え、人は判断と提案に集中する役割分担が現実的です。
ホームセンターのAI接客は店頭とECのどちらから始めるべきですか?
問い合わせ件数とデータの整備状況で決めます。
店舗で売り場案内が多いなら店頭ナビ、ECで商品選びの離脱が多いならWebの相談AIが候補です。
最初は対象店舗や商品カテゴリを限定し、回答精度と利用後の行動を確認してから広げます。
生成AIに商品マニュアルを読み込ませるだけで使えますか?
読み込ませるだけでは不十分です。
古い情報や重複した説明が混ざると、回答が不安定になります。
商品情報、FAQ、作業手順を整理し、更新日、対象商品、利用条件を明確にしたうえで、AIが参照できる状態に整える必要があります。
誤回答や危険な案内はどう防ぎますか?
回答する領域を限定し、参照元を承認済み情報に絞り、回答不能時の処理を決めます。
電気工事、薬品、工具の安全利用などは注意表示と人への引き継ぎを設けます。
公開前のテストに加え、運用後も質問ログを確認し、誤回答と未回答を継続的に修正します。
AI接客を実装する「Onboarding Pulse」
Onboarding Pulseは、お客様との対話から希望や迷いを引き出し、商品・サービスを提案するAI接客サービスです。
ホームセンターでは、用途・利用環境・予算を会話で整理し、条件に合う商品を理由とともに比較して、選んだ商品の売り場まで案内する接客を設計できます。

提供方式は、売り場のタブレットやサイネージで利用する「店舗設置型」、店頭のQRコードから顧客のスマートフォンで起動する「QR起動型」、来店前の相談にも使える「ウェブサイト型」の3種類です。
店舗とWebを組み合わせ、接客体験をつなげることもできます。
主な機能には、音声対話、多言語対応、商品レコメンド、商品データ・フロアマップ連携、会話ログの分析があります。
API連携が可能な場合は、POSや在庫情報と接続し、商品提案から在庫確認、売り場案内までを一連の流れにすることも検討できます。
最初から全店舗・全商品を対象にする必要はありません。問い合わせが多い1店舗・1つの接客テーマに絞って検証し、会話ログから回答や提案を改善しながら対象を広げられます。
ホームセンターでAI接客の具体的な導入範囲を整理したい場合は、デモ体験や導入相談から、自社の売り場や商品に合う使い方を確認できます。







